「きゃあああ…っ!」


手にしているバケツを床に落とし、代わりに目の前にいる女子生徒の髪の毛を乱暴に掴む。

女子生徒はずぶ濡れになりながら、恐怖で震えた瞳で私を見上げていた。

私はその怯えた表情に薄く笑顔を浮かべ…たところで、ハッと我に返る。


…あれ?私、何をしているんだろう?



「やっと終わったぁ…!」


【完】と綴り終わったところで、グッと大きく伸びをして歓声を上げる。

それと同時に、もうずっとちゃんとしたものを食べていなかったからかおなかも鳴る。


「ユメカ先生、最終話の執筆お疲れ様です。送っていただいたデータはこちらの方で確認をさせていただきますので、今日はしっかりとお休みになってください」

「ふぁーい。お願いします〜」


私、相澤夢華(あいざわゆめか)23歳は、小説サイトのコンテストで大賞を取ってから小説家デビューし、今現在連載中の「愛されヒロインは溺愛されてます!」の最終話をつい先ほど執筆し終わったところだ。

デビュー作にももちろん思い入れはあるけど、今回の新作は特に時間をかけて執筆したもので、ヒロインに私の憧れを全て詰め込んだ。

物語の舞台は平凡な現代の高校で、嫌われているけど誰も逆らえない傲慢な悪役がいる学校を、転校生としてやってきたヒロインが変えていくという爽快青春物語だ。