竜王の歌姫

互いに贈り物を身につけながら、カノンとギルバートは暗くなり始めた街並みを見下ろす。

「こうやって喜ぶ顔を見れるのはいいものだな。
次はカノンの誕生日の時にでも、また何か贈らせてくれ」

そんなギルバートの言葉に、カノンは思わず身を固くした。

「カノン、君の誕生日はいつなんだ?
……どうした?」

そんなカノンの様子に気づいたギルバートが、心配そうに覗き込む。

(だって、私の誕生日は……)

言おうか言わまいか悩んだ末に、カノンは正直に打ち明ける。

『私の誕生日は、今日なんです』

カノンの言葉を見て、ギルバートもギョッとした顔をする。

「今日……!?
いやそれは予想外だったな……」

カノン自身、ギルバートに問われるまで誕生日を意識していなかった。
いや、意識しないようにしていた。

カノンにとって誕生日は、両親が死んだ日でもあった。
悪夢のようなあの事件を思い出し、自分の存在を呪う……それだけのものだったから。
それに、あの事件があった12歳以降、誰からも祝われることもなかった。

「すまない、今日が誕生日だとは知らず……俺の用事に付き合わせるばかりだった」

『いえ、私の誕生日に価値はありませんから。
少しでもギルバート様のお役に立てた方が有意義です』

カノンの言葉を見て、ギルバートが眉根を寄せる。

「……価値がない?
少なくともたった今、俺にとっては最も価値のある日になった」

(……え……)

「君がこの世に生まれてきてくれたことを、心から嬉しく思う」

その言葉は、真っ直ぐカノンの心へと響いた。

自分なんて、生まれてこなければと何度も思った。
こんな私には、誰かに誕生日を祝ってもらう資格なんてある訳ないのだと。

「誕生日おめでとう、カノン」

―――でも、この人の言葉が何よりも嬉しいと思ってしまう。

瞳にたまった涙が、堪えきれずに溢れた。

ギルバートはまたギョッとした顔をして、それからそっとカノンに手を伸ばした。

「……そんなに泣くと、目が溶けてしまいそうだ」

そう言って、指の腹で優しくカノンの目尻を拭う。

ああ、もう誤魔化せない。

―――ギルバートのことが好きだ。
この人のことが、何よりも大切で愛おしい。

「誕生日なら、もっと高価なものを贈れば良かったか」

指先が髪飾りに触れて、ギルバートが呟いた。
カノンは首をブンブンと横に振る。

(これでいい。あなたのくれた、これがいいんです)

書き出さずともその思いが通じたのか、ギルバートが優しく目を細める。

(今だけは、この幸福を抱えたままでいさせて)

瞳にとまらない涙を滲ませながら、カノンもそっと微笑み返すのだった。