竜王の歌姫

「見せたい場所があるんだ」

戻ってきたギルバートは、そう言ってカノンを連れ出した。
そうして辿り着いたのは、街の高台。

(わぁ……!)

高台からは、夕焼けに染まる街並みを見渡すことができた。
あたたかな光に包まれる街は、とても綺麗で煌めいて見えた。

「綺麗だろう?
ここからじゃないと見られない景色だ」

眼下に広がる景色に目を奪われながら、カノンは頷く。

「俺がお忍びで街に来る時は、いつもここに来るんだ。この景色を君にも見せたかった」

ここは、ギルバートのお気に入りの場所なのだ。
そんなところに連れてきて貰えたことが素直に嬉しくて、カノンは微笑む。

(……渡すなら、今かもしれない)

カノンは先ほど露店で購入したブローチを取り出した。
ブローチはプレゼント用の綺麗な包装紙に包まれている。
カノンはおずおずと、ギルバートに向かってそれを差し出した。

「……俺に?」

カノンが頷いたのを見て、ギルバートがそれをそっと受け取った。

『洋服のお礼に、もし良ければ受け取って下さい』

「わざわざ用意してくれたのか。ありがとう。
……開けてもいいかな?」

カノンは頷いて、ギルバートが丁寧に包装紙を剥がしていくのを見守る。

「これは……ブローチ?」

『はい。
“いつまでも健やかで幸せでありますように“
そう願う相手に渡す、お守りでもあるそうです』

想い人に渡せば“永遠に深い愛で結ばれる”
そんなジンクスがあることは、さすがに言えなかった。

「それを俺に……ありがとう」

普段ギルバートが身につける装飾品は、これとは比べ物にならないくらいの高級品だろう。
けれどギルバートは快く受け取ってくれた。それが嬉しかった。

「似合うか?」

早速ブローチを胸元に取り付けたギルバートが、そう尋ねてくるのにカノンは何度も頷いた。

「じゃあ、俺からも……これを」

そう言ってギルバートが、カノンに何かを差し出した。
それは先ほどと同様に、綺麗な包装紙に包まれている。

そっと受け取って開けてみる。
中から出てきたのは、丁寧に編み込まれた花の髪飾り。

(これって……)

それは、カノンが目を惹かれつつも買わずに諦めたあの髪飾りだった。

「店先でしばらく眺めていただろう」

だから、わざわざ買ってくれた?
いつ?
もしかして、用があると離れたあの時だろうか。

戸惑いの中に、嬉しさがじわりと滲む。

「君に似合うと思ったから買ったんだ。
……受け取ってくれるか?」

『ありがとうございます。
一生大切にします』

この瞬間から、この髪飾りはカノンの宝物になった。

ギルバートが見守る中、髪飾りをそうっと髪につけてみる。

「やっぱり似合うな」

カノンのことを真っ直ぐに見つめ、ギルバートは優しく微笑むのだった。