竜王の歌姫

そしてギルバートを見送ってから、カノンは1人で近くの露店を見始めた。

洋服を買って貰ったお礼として、ギルバートに何かを贈りたい。
カノンはそう考えていた。

でもギルバートは、欲しいものは何でも手に入るような立場の人。
そんな相手に、一体何を送ればいいのだろう。
カノンの手持ちでは、買えるものだってたかがしれている。

でも……せめてもの気持ちを伝えたい。

そう思って視線を彷徨わせていれば、目に留まるものがあった。
それは、ギルバートの瞳の色を思わせる赤い石がはめ込まれたブローチ。
そんなカノンに、老婆の店主が声をかけてくる。

「お姉さん、これが気になるかい?
これはね、ただのブローチじゃなくてお守りなんだよ。
東のほうから古く伝わるもんでね、“いつまでも健やかで幸せでありますように”
そう願う相手に渡すといい」

“いつまでも健やかで幸せでありますように”
それを願う時、一番に頭に浮かぶのはただ1人。

―――ギルバート。

迷いの末、カノンは購入を決める。
商品を包み、カノンに手渡す際に店主は思い出したかのように言った。

「そういえば……これを想い人に渡せば“永遠に深い愛で結ばれる”そんなジンクスもあるらしいね」

(ギルバート様と、永遠に……?)

反射的に赤く染まる頬。
どんな反応をすればいいか分からなくて、カノンは店主に向かってぺこりと頭を下げた。