竜王の歌姫

アイスがついてしまった服をそのままにはできない。
ということで、ギルバートに連れられてやって来たのはとある洋服店だった。

「これなんて似合いそうだ」

ギルバートにそう勧められて着替えた服は、城下町を歩くのにちょうど良いくらいの、けれど質の良い綺麗なワンピース。

(かわいい……)

仕事着以外で、こんなちゃんとした服を着るのは初めてかもしれない。
自然と口元に笑みが浮かぶ。

「気に入ったみたいだな。
じゃあこれを着ていこうか」

そんなカノンの様子を確認したギルバートが、お店の人を呼んでさっと会計を済ませてしまう。

(そんな、ギルバート様に買わせてしまうなんて……!)

持ち歩いていた筆談用の紙に、慌てて『自分で払います』と書いて掲げる。
しかしギルバートがそれを制した。

「今日付き合って貰ったお礼として、これくらいは贈らせてくれ」

(本当にいいのかな……。
でもせっかくの思いを、無碍にもできない)

逡巡の後、カノンは「ありがとう」を伝えるために深々と頭を下げる。

「どういたしまして。
カノン、もう一回よく見せて」

顔を上げたカノンの姿を、ギルバートがまじまじと見つめる。
それから瞳を愛おしげに細めて言うのだった。

「よく似合っている。
―――可愛いな」

心臓の鼓動が嘘みたいに早くなって、今日が命日なのかもしれないと、カノンは本気でそう思った。



新しい服を着て街中を歩けば、何だか前よりも人からの視線を感じる気がした。
視線の先に目を向ければ、カノンと目が合った男が慌てたようにパッと目を背ける。

(気のせいかな……?)

小首を傾げるカノンは、その後ろでギルバートが、カノンに視線を送る男たちに鋭い眼光を向けて牽制していることに気づかないのだった。