竜王の歌姫

侍女の仕事で得た給金を持ってきていて良かった。
子どもが持っていたものと同じアイスを買い直し、カノンは元の場所へと急ぐ。

子どものそばには、ギルバートが少し困ったような顔でしゃがみ込んでいた。
カノンは同じように、子どものそばにしゃがんで目線を合わせる。

そして子どもに新しいアイスを差し出した。

ぴたりと泣き止み、差し出されたそれを子どもが見つめる。

「……くれるの?」

その言葉にカノンが頷くと、子どもの目がパアッと輝いた。

「おねーちゃんありがとー!」

「危ないからもう走らないようにな」

嬉しそうにアイスを受け取った子どもは、ギルバートの言葉にも「うん」と素直に頷く。

「すみません、うちの子が何かご迷惑を……!」

そうしているうちに、子どもの母親が慌てた様子で駆け寄ってきた。
ペコペコと頭を下げる母親に連れられて、「ばいばーい!」と元気よく子どもが帰っていく。

(よかった、笑ってくれて)

カノンも笑顔でそれを見送った。


「カノンは、優しいんだな」

(優しい……?)

泣いている子どもが笑ってくれたら、それが一番。
それが自分の中での当たり前であるカノンは、ギルバートの言葉に首を傾げる。

「イヤな顔ひとつしないで、自分の心配よりまず人の心配。
それは当たり前のようで中々できないことだ」

ギルバートはそう言って、カノンをじっと見つめる。

「君のそういうところが―――いや」

何かを言いかけた言葉は、聞けずじまいのままだった。

「それよりも、服が汚れてしまったままではいけない。
どこか着替えられるところに行こう」