そして、約束当日がやって来た。

城の外での待ち合わせ場所に、カノンはそわそわと落ち着かない気持ちで立っていた。

(こんな格好で大丈夫かな……)

仕事着以外の服をろくに持ち合わせていなかったカノン。
手持ちの中でまだマシなものを着て来たけれど、それでも見窄らしさは拭いきれないように思えた。

「―――カノン」

聞こえた声に、弾かれたようにカノンは顔を上げた。

「すまない、待たせたか」

現れたのはギルバートだった。

しかし、ギルバートの見た目はいつもと違っていた。

漆黒の髪は茶色に、そして服装も庶民的なものとなっていた。

「ああ、今日はお忍びだから変装してる」

カノンの視線に応えるように、ギルバートが言った。

新鮮な姿に思わず見惚れてしまう。
そんなカノンに向けて、ギルバートが微笑んだ。

「―――行こうか」



(わぁ……!)

露店が並び賑わう町並みに、たくさんの行き交う人々。

初めて見る城下町に、カノンは圧倒されるばかりだった。

(あれは何だろう?
あ、あれも……初めて見る)

キョロキョロと辺りを見渡しながら、その顔には自然と笑みが浮かんでいて。
ギルバートは、そんなカノンのことを優しい瞳で見つめるのだった。