ルーシーは、この街の人から遠巻きにされている子どもだった。
母親はすでに亡く、父親は酒好きで酔うと誰彼構わず暴力を振るうという嫌われ者だったから。
関わり合いになりたくはないと、誰も近づこうとはしなかった。

ルーシーも父親から暴力を振るわれていた。冬の寒い日に薄着で外に締め出されることもあった。

そんなルーシーに、唯一声をかけたのがカノンだった。

カノンは寒さに震えるルーシーを家に連れ帰った。
両親は驚きつつもルーシーを受け入れ、温かい衣服と食事を与えた。
そしてカノンは、ルーシーに歌を教えた。
2人は暖炉の前で毛布にくるまりながら、一緒に歌を口ずさんだ。

その時は確かに、2人の間に“友情“が存在したはずだった。

しかしルーシーは段々とおかしくなっていった。
カノンの髪型から仕草から全てをマネしようとするようになり、次第に何でもカノンと張り合おうとするようになった。
カノンの友だちには、カノンじゃなくて自分の友だちになれと詰め寄る。
カノンが歌えば、自分の方が上手く歌えると声を張り上げる。

恩人であるはずのカノンへの態度も、酷くなっていくばかりだった。

初めはルーシーを快く受け入れようとしていた街の人も、次第にルーシー自体を嫌厭するようになっていった。

それでもカノンはルーシーのことを嫌いにはなれなかった。

それは「髪の色が似ているね」と笑い合って、一緒に歌を歌って、「友だちになろう」と指切りをしたあの日のことを、カノンは忘れていなかったから。