「ラースとは上手くやっているみたいだな」

今日もカノンは裏庭にて、ギルバートと2人の時間を過ごしていた。

『はい。良くしていただいています』

ギルバートの言葉に、すっかり慣れた筆談でそう返すカノン。

「そうか……良かったな」

しかし今日のギルバートは、いつもと少し違うような気がした。
何かを言いたげというか、考え込んでいるというか。

「アイツもカノンを気に入っているようで、俺にもカノンの話ばかりをしてくるよ」

でも、とギルバートの視線がカノンと重なる。

「その度に俺は……アイツに嫉妬する」

(……それって……)

告げられた言葉に、心臓が高鳴る。

“それって、どういう意味ですか?”

書き出そうとして、けれど悩んで指が止まる。
知りたいけれど、知りたくない。

騒ぎ立てる心臓と共に、ただギルバートを見つめることしかできなかった。

「……ところで、ラースに聞いたが城下町に行ったことがないというのは本当か?」

沈黙を破ったのは、ギルバートからの新たな質問だった。

カノンはこくりと頷く。

これまで神殿でこき使われて、ろくに休日も与えられていなかった。
そんなカノンには、休日どこかへ遊びに行くといった概念がない。

城に来てからはしっかりと休日が与えられていたが、それでもカノンは私用で外に出かけたことはなかった。
そんなことを、この間ラースとの会話の中で答えていた。

「俺は定期的に、城下町の視察をしているんだが……次の視察に、カノンも一緒に来ないか?」

思いもよらぬ提案に、カノンは目を丸くする。

『私なんかが一緒に行っても大丈夫なのですか?』

「ああ。視察と言っても町、人に扮して城下町を見て回るだけの気軽なものだ」

視察とはいえ、ギルバートと一緒に初めての城下町。

(でも……)

返事を躊躇うカノンに対して、ギルバートが優しく問いかける。

「カノンが行きたいか、行きたくないか。
素直な気持ちを教えてくれ」

『行きたい、です』

その返事を見たギルバートが、にっと笑う。

「じゃあ決まりだな」