「カノンって飲み込みが早いんだよね。
あの子がいれてくれる紅茶も日に日に美味しくなってるしさ」

ギルバートの前で、あえてカノンの話題を出してみる。
すると自分で気づいているのかは知らないが、あからさまにギルバートの眉根が寄る。

俺だってまだ飲んだことがないのに……みたいな顔してる。

思わず笑いそうになるのをこらえて、ラースは笑顔でギルバートに告げた。

「ほんと、カノンがきてくれてよかったよ」

「……そうか。
随分とカノンを気に入ったようだな」

複雑そうな表情をしながら、ギルバートはじっとラースの真意を測るように見つめてくる。

「そうだね。
まあ軽い気持ちで言い寄るつもりはないから安心してよ」

ラースはへらりと笑ってそう言って、「でも」と付け加える。

「本気になったら分からないけど」

ラースの言葉に、ギルバートが目を見開いた。

「ラース、それは……」

ラースは挑発するような不適な笑みで、ギルバートに言い放つのだった。

「あんまりうかうかしてると、俺が貰っちゃうよ」



ギルバート、焦ってたなあ。
完全無敵な次代竜王様も、惚れた女のことになると可愛いものだ。

先ほどのギルバートの姿を思い出して、ラースはクスッと笑みをこぼす。

自室に戻れば、他の侍女たちと共にカノンがラースのことを出迎えた。

ラースは思う。
いっそ歌姫は本当は別にいて、それがカノンであったなら―――最高のハッピーエンドになるのにね。