ラースは女性が好きだ。
けれど微笑みひとつでこの手に落ちるような簡単さを好む一方で、顔の美醜や地位の高さで価値をはかって媚びる女たちの姿を愚かだとも思う。

特に、ルーシーのそれは醜悪だった。
ラースがこれほどに嫌悪感を高めるのは珍しいことであった。

ああ、俺は思ったよりも歌姫の存在に期待をしていたのかもしれない。
ギルバートが焦がれるその運命を、この目で見てみたいと思っていたんだ。

そしてどうやら、ルーシーのお付の2人も、やってきたツケが回ってきたようだ。

そこでふと浮かんだのが、もう1人の存在。
唯一まともに仕事をしていて、ミドルからも評価されていた。
彼女だけは侍女として働き続けているのだという。
名前は確か……カノンといったか。

彼女は他とは違う。
そう言われていたけれど、果たして本当にそうなのか。
彼女だって、蓋を開けてみれば大して変わらないのではないか。

例えば、俺が声をかけたら簡単に靡くような女だったりして?
試してみようか。


そしてラースは、カノンに会いに行った。
これまで遠目に姿を見かけることはあったけれど、こうしてまじまじと対面するのは初めてだった。

澄んだ青の瞳に、まず目を引かれた。
しばらく眺めてから、これまでは大して印象にも残らなかった理由が、髪型にあると気づく。

「可愛いね。よく似合ってる」

意識的に、甘い言葉と微笑みを向ける。
この後の女性の反応は大概同じだ。

―――ねえ、キミもそうなんでしょ?

けれど。カノンは顔を赤らめるでも狼狽えるでもなく。
ただペコリと頭を下げただけだった。

意表をつかれたような気分になって、思わず笑みがもれる。

「……なるほどね」

少なくとも、ルーシーたちと違う人種ということは確かみたいだ。

うん、ちょっと面白いかも。

「またね」を告げてその場から立ち去るラースの口元は小さく笑っていた。