―――こんなものか。
それが、歌姫(ルーシー)の歌声を初めて聴いた感想だった。

歌姫お披露目のために開かれたパーティ。
ルーシーの歌は確かに上手くて綺麗な声だった。

けれど、歌姫の歌には……聞けば胸にくる何かがあるような気がしていたから。

そして、ルーシーの隣に立つギルバートの表情を見て思う。
少なくとも、この歌姫様は……ギルバートの求める“運命”ではないのだと。


ラースは女性が好きだ。
柔らかくて温かくて、優しくする程に扱いやすいところも単純で可愛いと思う。
だから余程のことがない限り、無碍に扱うことはしない。

けれど、心の底から誰かを愛したことはなかった。
そしてそれは、ギルバートも同じように見えた。

ギルバートのことは、幼少期の頃から知っている。
初対面から今まで、もう長い付き合いだ。

そんなギルバートは、いつか現れるとされる歌姫の存在にも懐疑的だった。

「会いたい人ができた」

だからギルバートが、何かに焦がれるような目をしてそう言った時は驚いたものだ。

だから、現れた歌姫こそがその“会いたい人”なのだと、そう思っていた。
しかし現実は、そうではなかった。

「……あれが歌姫なんて、同情するよ」

ひとりでに呟くラースが思い出すのは、先日のこと。
謹慎中の身でありながら、ラースの部屋に押しかけて関係を迫り、拒否されれば脅しをかけてくる始末だった。