カノンはラースの部屋にティーセットを運ぶ。
ティーテーブルの上にセッティングし、最初の頃よりはマシになった手つきでカップに紅茶を注いだ。

「カノン、仕事にはもう慣れた?」

ラースとの会話用に、紙とペンが支給されている。
カノンは手早く紙にペンを走らせた。

『少しずつですが慣れてきました。
みなさんが優しく教えてくれるおかげです』

カノンの返答を見たラースは、「そっか」と満足げに頷く。
それから紅茶を口に含み、「確かに美味しくなったね」と微笑んだ。

「ところでカノン、今日はギルバートと話せた?」

『はい、少しだけお話しできました』

ギルバートとカノンが裏庭で密やかに会っていることを、ラースは知っていた。
その返答を見ると、ラースはますます満足そうな顔をした。

「ところで、ギルバートの幼少期珍事件簿の続き聞いてく?」

(し、知りたい……!)

カノンの反応を見たラースが、カノンにも向かいに座るよう勧めてくる。

ラースはこうして時々、ギルバートの幼少期の話などを聞かせてくれる。
それにこの間の話は途中になっていたから、それは魅力的すぎる提案だった。

(でも、仕事中だし侍女の立場で同じテーブルに座るのは……)

それを見透かしたように、ラースはにっこりと笑って言うのだった。

「本当にカノンは遠慮しいだね。
主の話に付き合うのも仕事のうちだと思ってちょっと聞いていってよ」