竜王の歌姫

そんな初対面から、さほど時を置かずに次はやって来た。

シーツ類の洗濯を終え、ふうとひと息ついた頃。

「カノン」

名前を呼ばれて振り向けば、そこにはラースがいた。

「え、ラース様?」
「なんでこんなところに……?」

周囲にいた竜人侍女たちは、突然のラースの登場にざわめいた。
自然と視線はカノンとラースに集中する。

「キミにもう一度会いたくなって」

そう言って微笑みを浮かべるラースに、侍女たちのざわめきがより大きくなる。

自分には、ラースのような人から名指しされる程の立場も親密さもない。
そうはっきり自覚のあるカノンは、冗談が好きな人なのだろうかと内心で首を傾げた。

とりあえずペコリと頭を下げておく。

「……ふっ」

そんな反応を見て、ラースはまた笑いをもらした。

「今日も頑張ってるね」

ラースは綺麗に干されたシーツたちを眺めてから、再びカノンに目を向ける。

「仕事は好き?」

問いかけられて、カノンは迷いなく頷いた。

「周りはみんな竜人だろうけど……仲良くやってるみたいだね」

カノンがちらりと目を向ければ、ニアとマーガレットと目が合った。
ニアはいつも通りの無表情だけれど、マーガレットは何かを期待するような目でグッと親指を立ててくる。

その意図がよく分からず、カノンはまた曖昧に笑い返した。

「ギルバートも褒めてたよ。
キミはよくやってくれてて、評判もいいって」

「……!」

ラースの口から出たギルバートの名前に、ぴくりと反応するカノン。

ギルバートが褒めてくれていた。
その事実を噛み砕き、込み上げる嬉しさに自然と頬が緩む。

そんなカノンのことを観察するように見ていたラースが、再び口を開く。


「それで俺も、キミのこと気に入っちゃった。
だからさ、俺のお世話係になってよ―――カノン」