竜王の歌姫

こうしてルーシーは、ラースの部屋に足を踏み入れた。

「それで、話というのは―――」

先を歩くラースが言い終える前に、ルーシーはその胸の中へ飛び込むようにしがみついた。

「……ルーシー様?」

「……ごめんなさい。話があるって言うのは嘘なんです。
実は今日、すごく悲しいことがあって……それで、1人でいるのが辛かったんです」

「……でも、今あなたは謹慎中のはずでは?」

ルーシーを見下ろすその顔は、やはり抜群に整っていて美しい。
いい代用品になってくれそうだ。

「はい……だから、こっそり抜け出してきました……」

「じゃあ、発覚するとマズいって訳ですね」

上目遣いにラースを見つめながら、強請るようにルーシーが続ける。

「そうなの……だから、これは2人だけのヒミツ。
ねえ、今は2人きりだから堅苦しい喋り方もなしでいいよ?」

ルーシーのことを、ラースもじっと見つめ返してくる。

「……キミは、(ギルバート)にお熱だったように見えたけど?」

ふふ、結構乗り気じゃない。
ルーシーは内心の笑みを隠すように瞳を潤ませる。

「……ギル様は、ちっとも私の思いに応えてくれないの。だから私、悲しくて……寂しくて……」

そっと手を伸ばしてラースの頬に触れた。

「どうか今夜だけでも、この寂しさを忘れさせて……?」

ほら早く、代用品になってよ。


「うん、無理」

「……え?」


だから、ラースのその言葉が信じられなかった。