竜王の歌姫

歌姫専用の離宮。
ルーシーのために誂えられた広い室内では、何かが壊れるような音が絶えず響いていた。

「……なんでっ、なんでなのよ……!」

その中でひとり声を荒げるルーシーは、テーブルの上のティーカップを振り上げる。
次の瞬間床へと叩きつけられたそれは、派手な音を立てて割れた。

肩で息をするルーシー。
その足元には様々な破片が飛び散り、室内は酷い有様だった。

「こんなはずじゃなかったのに……!」

ルーシーは荒れていた。
自分は歌姫として選ばれたはずなのに、ちっとも思う通りにならない。
そんな日々に対する不満はピークに達し、ひたすらに苛立つ心。

どうして?
私は誰よりも特別な存在のはずでしょう?

「どうしてよ、ギル様……」

最高級のソファに乱雑に腰掛けて、ルーシーは呟く。
どうしてあの人は、私のものにならないの?