竜王の歌姫

「いやその、ちが……わないんだが……」

自身から飛び出た発言に気づいたギルバートの顔もほのかに赤くなった。

気を取りなおすように一度咳払いをして、改めてギルバートが言う。

「よく似合っている」

他ならぬギルバートにそう言ってもらえることが嬉しくて、カノンははにかむように笑った。

2人の間に流れる、柔らかい空気。
いつものように隣り合って座り、共に過ごすこの時間は何よりも大切なものだった。

カノンはギルバートの精巧な横顔を盗み見る。

「……どうした?」

その視線に気づいたギルバートが、優しく問いかける。
慌てて首を横に振るカノンを見て、フッと微笑んだ。

(……ああ、)

カノンははっきりと自覚する。

(私はこの人に惹かれている)

高鳴る鼓動が、胸に感じる愛しさがそれを証明する。

(……でも)

相手は、この国の王となる人。
想うことさえ烏滸がましいような、カノンとは到底釣り合わない相手だ。

それにギルバートには、もう決まった相手がいる。
ルーシー。この国の歌姫となる存在。

代々、竜王は歌姫を己の妻としてきた。
竜王を公私共に支え、生涯を共にする。
それが歌姫だ。

決して叶うことのない想い。
それを痛感して、胸が痛む。

この場所で、いつまでこうして会うことが許されるのかさえ分からない。
終わりがくるその時を考えると、締め付けられるように苦しくなるけれど。

ふと目が合って、2人は小さく笑い合う。


―――今はただ、奇跡のようなこの幸福を、噛み締めていよう。