カノンはこの国の外れにある、小さな田舎町で生まれた。
農地ばかりが広がる、穏やかな環境。
家はあまり裕福ではなかったが、優しい両親の愛情を一身に受けてカノンは育った。

幼い頃のカノンは、歌うことが大好きだった。
カノンが歌うと、大人も子どもも、自然と周りに人が集まった。
光に透ける白銀の髪に、宝石のように煌めく青の瞳の愛らしい容姿。
そして、その小さな身体から出ているとは思えない程伸び伸びと、透き通ったその歌声は、人々を惹きつけてやまなかった。

「本当に天使のようだねえ」
「ぼく、カノンねーちゃんのうた、だいすき!」
「なあ、もっと歌ってくれよ」

街の人たちの、そんな言葉がくすぐったくて嬉しくて、カノンは何度も何度もメロディを紡いだ。

そんなカノンの背中を、後ろから押す人物がいた。
いきなり突き飛ばされて大勢を崩したカノンは、その場で尻餅をつく。

「何してんだよ、ルーシー!」
「カノンが可哀想だろ!」
「謝れよ!」

周りが口々に、カノンを突き飛ばした犯人であるルーシーを責め立てる。
ルーシーは、カノンと比べて少しくすんだ銀の髪を持つ少女だ。

非難を浴びると、俯いて震えながら黙り込んだままでいる。

「みんな、わたしは大丈夫だよ」

カノンは立ち上がると、ルーシーに向けて優しく声をかけた。

「こんにちはルーシー、あなたも歌いに来たんでしょ?」