竜王の歌姫

アリサとユウミには、侍女の地位剥奪という処罰が下った。
その代わりに、王室馬舎の馬丁の下働きをすることが命じられた。
馬丁頭は厳しいと評判で、これまでと比べたら遥かに過酷な仕事であることは間違いなかった。

しかし、アリサとユウミが頼みの綱であったルーシーに助けられることはなかった。

ルーシーにもまた、現在の住まいである離宮内で一定期間の謹慎という処罰が下っていたからだ。
曲がりなりにも歌姫候補であるルーシーへの処罰は、これが限度だった。
そしてこれは、ギルバート直々に下されたものだった。

その際に身の振り方について釘を刺されたルーシーは、真っ先に使えないどころか足を引っ張る存在になると
判断したアリサとユウミを切り捨てた。

切り捨てられた2人は馬丁の下働きに強い拒絶を示したが、それならば神殿に戻るしかない。
しかしこんな不名誉な形で出戻ったら、どんな酷い扱いを受けるのか。
他に行き場のない2人は、大人しく処罰を受け入れるしかなかった。


今回の件を経て、カノンの身の回りは随分と平和になった。
そして、より一層ニアや竜人侍女たちとの仲を深めることができた。

「ニア、カノンこっちこっち〜。
席とっておいたから」

「早くおいでよ」

カノンに向けられる温かい視線。親しみのある態度。

(知らなかった。世界はこんなに優しかったってこと)


神殿にいたあの頃は、まるで全てが敵になったような気さえしていたのに。
ここに侍女としてやって来てから、カノンは心から笑うことができていた。