竜王の歌姫

凛とした声が響く。侍女長が、数人の侍女を引き連れて現れた。

「は……? 何……」

呆気に取られる2人に対して、侍女長は毅然と言い放つ。

「歌姫様とアナタたち2人が、ニアや他の侍女たちにやってきたことは、全て私から上に報告しました」

「……そんなの、いつもみたいにルーシー様の力でどうとでも……」

ユウミの言葉を遮るように、侍女長は続ける。

「これだけの被害が重なれば、歌姫様といえど言い逃れはできないはずよ。
アナタたちにも、何かしらの処罰が降ることは間違いないでしょうね」

「で、出鱈目言わないでよ!
ただの侍女なんかより、私たちの方が優先されるに決まってるじゃない!」

「そ、そうよ!
それなのに粋がっちゃって、馬鹿みたい」

動揺を隠せず、言葉を詰まらせる2人。
それでも強気の姿勢を崩さず、そう鼻で笑って見せるけれど。

「な、何よ……っ」

自分たちに向けられる冷たい目線にたじろいだ。

「アンタたちのことは、こっちだってルーシー様に言い付けてやるから……!」

捨て台詞を残すと、バタバタと足音荒くその場を去っていった。


「……カノン!
叩かれたとこ、見せて」

2人の姿が見えなくなってすぐに、カノンはニアに肩を掴まれた。
“大したことないから、大丈夫“
そう伝えるよりも早く、ニアの手が頬に触れる。

「……赤くなってる。
ごめん、ワタシのせいだ」

赤みの残る頬を見て、ニアが眉を顰める。
カノンは首を横に振った。

叩かれた頬はまだ少し痛んだけれど、これくらい神殿では珍しくなかった。
それに、カノンが勝手に飛び出したのだ。

(ニアがこれ以上傷つかなくて、よかった)

だから本当に、気にしないで欲しい。
そう伝えようとするカノンの顔を、周りの侍女たちも覗き込んでくる。

「ああ、確かに赤いね。
まずはよく冷やした方がいいよ」

「ニア、医務室に連れて行ってあげて」

“そんな、放っておけば治ります“
慌てて伝えるカノンに、ニアがずいっと顔を近づけて言う。

「ダメ。
人間は私たちよりも脆い。万が一傷が残ったらどうする」

そうしてカノンは、ニアによって医務室へ連行されることになったのだった。