今日もカノンは侍女としての仕事を順調にこなしていた。
竜人侍女たちとも、随分打ち解けてきた。
神殿で皆から虐げられていた頃に比べたら、大分心穏やかに過ごすことができている。

「カノン、後ろ向いて」

指示通りに後ろを向くと、ニアが背中から何かを摘んで見せてきた。

「ついてる」

近道をしようと狭いところを通ってきたせいだろうか、カノンの背中には
通称くっつき虫と呼ばれる植物がくっついていた。

「ここにも、ここにも、ここにもついてる。
一体どれだけつけてきたの」

とってもとってもくっついている様子を見て、ニアが少し呆れたように笑う。
“ごめん、ありがとう“
ジェスチャーで伝えながら、釣られるようにカノンも笑った。


「あら、随分楽しそうね?」

そんな穏やかな空気を壊すように、声が響く。

振り返ると、そこにはルーシーが立っていた。
ルーシーの両脇には、アリサとユウミの姿。

3人は並び立ち、カノンとニアのことを見下ろす。

「……何しに来たんですか?」

ニアが無愛想に尋ねた。
ルーシーが仕事場を訪ねて来るなんて初めてのことだったから、警戒しているのが分かる。

「あら、カノンのことが心配で、様子を見にきてあげたのよ。
私が連れてきたのだから、何か不自由があってはいけないでしょう?」