竜王の歌姫

「ギル様ぁ。お会いしたかったですぅ」

今日もギルバートの元に、ルーシーとその取り巻きが押しかけて来た。
許可した覚えのない略称でギルバートを呼ぶようになったルーシーは、上目遣いで媚びた笑みを見せる。

「申し訳ありませんが、ギルバート様はこれから公務がありますので」

側近のミドルが、そんなルーシーを遮るように間に入った。

ミドルは現宰相の息子であり、ギルバートの即位と同じくして代替わりする予定だ。
昔も今も、よき相棒としてギルバートを支えている。
そんなミドルは、ギルバートとはまた違うタイプの、線の細い美形だ。

「ええー? せっかくなんだから、ちょっとくらいいいでしょう?
私、ギル様ともっと仲良くなりたいんですっ」

ルーシーはそう言って、ギルバートの手を両手でぎゅっと握った。

「ルーシー様もこう言ってるし、いいじゃないですかぁ。
ミドル様も私たちとお話しましょうよ〜」

取り巻きの2人は、媚びた声でミドルに言う。

そんな時、執務室の扉がコンコンとノックされる。


入室を許可すれば、入ってきたのはラースだった。

ラースはフォーゲル国の王子であり、国交のためこの国に滞在中だ。
すらりと伸びた長身。
ギルバートから見ても、綺麗な顔をした男だと改めて思う。

「ラース様……!」

ラースが入ってきたのを確認した、取り巻き2人の目の色が変わる。

「ラース様、あの……私たち、もっとラース様とお話してみたいと思っていて……!」

ラースは基本的に女好きで、女性に優しい。
自国でもどこでも女性が寄りつくのが絶えないような男だ。

「そうなの? 光栄だな」

だから急に擦り寄ってきた取り巻き2人に対しても、嫌な顔を向けることはなかった。
ラースの微笑みに、取り巻き2人がポーッと顔を赤くする。

「ね、ギル様……」

「手を離してくれ」

ギルバートは握られた手を解きながら、ルーシーに向けて言う。

「悪いが、今日は早めに片付けたいものが多いんだ。
それに、君はそろそろ授業が始まる頃だろう」

渋々といった様子で戻って行ったルーシーらを見送って、ギルバートは抑えていたため息を漏らす。