「なあ、君は―――歌うのか?」
頭で考えるよりも早く、気づけば言葉が溢れ出していた。
騒ぎ出した鼓動の理由を確かめるように、ギルバートはただ目の前の女を見つめる。
そして女は―――首を横に振った。
それを見て、ギルバートはハッと我にかえる。
(俺は急に何を言って……)
改めて目の前の女を見る。
侍女は侍女でも、彼女は人間だった。
ルーシーの付き人としてやって来たのは3人。
うち2人は、ルーシーにいつも付き従うアリサとユウミだ。
そしてもう1人―――彼女の姿を見るのは、これが初めてだった。
「そうか、君が……」
側近のミドルが言っていた、“声を出すことができない少女“だと理解する。
声を出せない人間が、歌を歌えるわけもない。
そもそも歌えたところで、ギルバートにはすでに歌姫がいるというのに。
それなのに妙に残念に思う。
自身と同じ色をした黒髪。目元を覆い隠す程長く垂らされた前髪。
そして、出ない声。
目の前の彼女と、夢の中の少女が結びつくはずもないのに。
―――彼女の歌を、聴いてみたい。
何故だか無性にそう思った。
彼女の捜し物が見つかった頃、護衛騎士の1人がギルバートを迎えにやって来た。
上手いことやってくれと抜け出してきたが、そろそろ限界なのだという騎士に従って、ギルバートは会場に戻ることにする。
別れ際、彼女と視線が重なった。
「離れたくない」
胸に湧き上がった感情が、そのまま口から溢れそうになるのを押し留める。
「ギルバート様……」
「……ああ、分かってる」
騎士の催促に頷いて、どこか後髪引かれるような思いを抱えながらもギルバートはその場を後にした。
頭で考えるよりも早く、気づけば言葉が溢れ出していた。
騒ぎ出した鼓動の理由を確かめるように、ギルバートはただ目の前の女を見つめる。
そして女は―――首を横に振った。
それを見て、ギルバートはハッと我にかえる。
(俺は急に何を言って……)
改めて目の前の女を見る。
侍女は侍女でも、彼女は人間だった。
ルーシーの付き人としてやって来たのは3人。
うち2人は、ルーシーにいつも付き従うアリサとユウミだ。
そしてもう1人―――彼女の姿を見るのは、これが初めてだった。
「そうか、君が……」
側近のミドルが言っていた、“声を出すことができない少女“だと理解する。
声を出せない人間が、歌を歌えるわけもない。
そもそも歌えたところで、ギルバートにはすでに歌姫がいるというのに。
それなのに妙に残念に思う。
自身と同じ色をした黒髪。目元を覆い隠す程長く垂らされた前髪。
そして、出ない声。
目の前の彼女と、夢の中の少女が結びつくはずもないのに。
―――彼女の歌を、聴いてみたい。
何故だか無性にそう思った。
彼女の捜し物が見つかった頃、護衛騎士の1人がギルバートを迎えにやって来た。
上手いことやってくれと抜け出してきたが、そろそろ限界なのだという騎士に従って、ギルバートは会場に戻ることにする。
別れ際、彼女と視線が重なった。
「離れたくない」
胸に湧き上がった感情が、そのまま口から溢れそうになるのを押し留める。
「ギルバート様……」
「……ああ、分かってる」
騎士の催促に頷いて、どこか後髪引かれるような思いを抱えながらもギルバートはその場を後にした。

