竜王の歌姫

夢を見ていた。

広大な草原の中で、ギルバートは竜となった身体を横たえている。
そんなギルバートの前には、いつも1人の少女がいた。

空から降り注ぐ日の光を浴びて、キラキラと輝く白銀の髪を持つその少女は、歌を歌う。
何にも縛られず自由に、歌うことが楽しくてしょうがないという風に。

その歌声は心地よく耳に馴染み、ギルバートの心を震わせる。
もっと聞きたい、もっとそばで感じたい。
そう思っても、ギルバートたちの間には見えない壁にようなものが存在していた。

その壁に隔たれて、決して触れ合うことはできない。
話すこともできない。

唯一届くのは、少女の歌声。
自然と鳴る喉。澄んだ瞳と見つめ合って、ギルバートは目を細めた。

この歌声を、いつまでも聞いていたいと思う。
きっと彼女こそが―――俺の歌姫。



しかし目が覚めると、少女がどんな顔をしていたのか思い出せなかった。
確かに美しいと思った瞳でさえも、何色をしていたのか答えられない。

唯一消えずに残るのは、眩い白銀の髪と、あの歌声。

彼女は、この世界に存在するのか。
するのならば、今どこにいるのか。

今すぐに国中を飛び回って確かめたい。
幻想ではないのだと証明したい。

しかしそれは叶わない。

“竜王と歌姫は、来るべく時に必ず巡り合う“
その言い伝えに則って、竜王となる者はその()()()()()を待つのがしきたりだった。

(ああ早く、彼女に会いたい)

夢の中の存在を、ギルバートはただ渇望していた。