竜王の歌姫

その日も、カノンは裏庭でギルバートを待っていた。
しかし昨晩はどうにも寝つきが悪かったこともあり、猛烈な睡魔に襲われていた。

今日も来てくれるかもしれない。
だから、起きて待っていなければ。

そう思っても、暖かい陽気と心地よい風に誘われるように、うとうと体が船を漕ぐ。

(だめ、意識が……)

睡魔には抗えず、吸い込まれるようにカノンの意識は落ちていった。



また、夢を見る。
竜が見守ってくれる中、カノンは歌う。

ああどうして、この場所はこんなにも心地が良いのだろう。
ずっとここにいたいと思う。こうしていたいと思う。

その感情は、何かに似ている。

カノンは、竜の瞳を見つめる。
―――ねえ、あなたは誰?

その問いは、声にならず歌に消えた。



手のひらで優しく掬い上げられるように、意識が浮上する。
空に輝く光の眩しさに、開いたばかりの目を細めた。
そしてカノンは、自身が何かにもたれかかっていたことを知る。

(ギルバート様……!?)

目を向けた先には、ギルバートの横顔が見えて。
ギルバートの肩にもたれかかって眠っていた。
そのことを理解したカノンは、慌てて姿勢を正した。

(い、いつの間に……?)

ギルバートは、カノンが寝落ちてしまった後にここへ来たのだろう。
でもまさか、肩にもたれかかって熟睡なんて、なんて恐れ多いことを。

(気分を害されたりしていないといいけれど……)

カノンはそうっとギルバートを覗き込む。
ギルバートは目を閉じて、静かに寝息を立てていた。

(……本当に、綺麗な人……)

眠っているその顔まで、まるで作りものみたいに整っている。これではルーシーが惚れ込むのも無理はない。

気配に気づいたのか、まつ毛が震えてその瞼が開かれる。

真っ先に見えたのは、金色の優しい瞳。

「ん……起きたのか、おはよう」


ああそうか―――カノンは理解する。

この人ギルバートのそばにいる時に感じる心地よさは、夢の中で竜と共にいる時の心地よさに、よく似ているんだ。