竜王の歌姫

それからは文字を使って、ギルバートと会話ができるようになった。

「俺も、今の季節は好きだよ。
執務中にもついうたた寝しかけては、側近のミドルに怒られる」

『これだけ暖かくて過ごしやすいと、どうしても眠くなりますよね』

好きな食べ物や、好きな季節。そんな他愛もない話をはじめとして
ニアを筆頭とした竜人侍女たちに、とても良くしてもらっているということ。
毎日が充実していること。
ギルバートはカノンの話を楽しそうに聞いてくれた。

「5属性の力の開花には、先天型と後天型がいるが……俺は前者だな。
幼少期に全ての力が開花した。
ただ、中には孫ができる歳になって力に目覚めた者もいるからな。
未だ未知数のことも多い」

『孫の……!?
すごい……色々な可能性を秘めた力なんですね』

そしてギルバートも、この国のこと、竜人のこと、そして自身の持つ5属性のこと。
本の知識だけでは分からないことを教えてくれた。

声を失ってから、こんなに人と会話できたのは初めてかもしれない。

(この人は、次代の竜王で、本来私なんか話すこともできない人。
それなのに、どうしてこんなにも……)

立場はかけ離れているのに、話す度に心が近付いていくような感覚。

(楽しい。嬉しい。
この人のことを、もっと知りたいと思う。
ずっと、話していたいと思う)


時計塔の鐘の音に、ギルバートが呟く。

「ああ……もう時間か。ここに来ると、時間があっという間に過ぎる……」

カノンも同じ気持ちだった。
時間が過ぎ去るのは驚く程早くて、立ち去っていくギルバートの背中を見送ると、すぐに次が待ち遠しくなってしまう。

「また、来るよ」
『お待ちしています』

いつしかこの時間が、カノンにとってかけがえのないものになっていた。