竜王の歌姫

そうして連れて行かれたのは、侍女長の元だった。
侍女長は、侍女たちを統率する立場である。
当然竜人である彼女は、侍女の中で一番の権力を持つ人物だ。

城に勤めるのは基本嫁入り前の娘であるため、侍女長といってもカノンより数歳上くらいの見た目で、優しげな雰囲気を纏っている。

そんな侍女長に、ニアが耳打ちする。
それを受けて侍女長は「まあ……」と声を漏らした後、カノンを見た。

「私ね、ずっと気になっていたの。
アリサさんとユウミさん……あの2人が頼んだ仕事もまるでしないってことは聞いていたわ。
けれど2人に任せた仕事はいつも終わっている。
そして、カノンさん。あなただけは常に働き通しでいるみたいで……」

侍女長はカノンが働きつめな様子に気づいて、気にかけていたのだ。
「だから」と話を続ける。

「私、ニアに様子を見に行ってもらうように頼んだの。
そうしたらやっぱり……あなた、あの2人の仕事まで請け負っているのでしょう?」

問いかけられて、カノンは迷う。
ここで肯定すれば、アリサやユウミに何かお咎めがいくのだろうか。
そうなればきっと、カノンがチクったのだと2人は怒り狂うだろう。

困ったように眉を下げるカノン。侍女長は分かっているとばかりに頷いた。

「あの2人の性格からして、きっとあなたに無理やり押し付けているのでしょうね。
そしてあなたは、これまでろくな昼食も休憩も取らず働いていた。
1人で3人分をこなすには、そうでもしないとやっていけないものね。
気づくのが遅くなってごめんなさい。これまでよく頑張ってくれたわ」

そう優しく語りかける侍女長。しかしその後すぐに言葉が続いた。

「でもね、これからは話が別。
労働に対して、適当な食事と休憩は欠かせないものよ。
特にあなたは、私たちよりも身体が弱くできているのだから……その内倒れてしまうわ」

侍女長は、カノンの痩せすぎな身体と疲れが見える青白い顔をじっと眺めながら言う。

「これからは仕事量をこちらで調整するわ。
だからあなたには、これからきっちり食事と休憩をとってもらいます」