竜王の歌姫

「……そうか君が……」

男はカノンをじっと見つめた後、何かに気づいたように呟いた。

「すまない、今のは忘れてくれ。
それで君は、ここで何をしていたんだ?」

そして少し残念そうな顔でそう言うと、カノンに尋ねた。
カノンは身振り手振りで、何とか男に伝えようとする。

「うん……? 
ここで何かを落としたということか?」

男が上手く読み取ってくれたことに加え、気分を害した様子もないことに安堵するカノン。

「それなら、この暗闇では無理だろう」

男はそう言うと、右手の人差し指を立てる。
一振りで、その指先に温かいオレンジ色の炎が宿った。

男が空中に指先を振ると、その先にまるで蝋燭の灯のような炎がいくつも浮かぶ。
驚きに目を見張るカノンをよそに、男はあっという間に周囲を照らした。

「これで少しは探しやすくなるだろう」

そう言ってかすかに微笑む、男の瞳は金色だった。
その瞳を見つめ、カノンは思う。


―――あの(夢の中)竜と似ている