竜王の歌姫

「それに、歌姫様が連れてきたお付きの人間たち。あれは何なの?
与えられた仕事もろくにしないで、歌姫様にベッタリ媚を売るだけ」

そしてそれは取り巻きのアリサとユウミも同様だった。
カノンたち3人は、あくまでルーシーのおまけであって、その立場はただの侍女。
人間であり、新人でもあるカノンたちは下積みとして多くの雑用をこなす必要があった。
しかしアリサとユウミは、そんな雑用を放棄して、常にルーシーの両脇に張り付いていた。

何か言われると、「自分たちの仕事はルーシーのサポートだ」と言い張って、ルーシーもそれを肯定する。
それに、放棄した仕事はカノンが代わりに担うことで何とかなっている。だからこそ、それ以上強く言われることもなかった。

当たり前のように、そんなルーシーたちに対する周囲の評価は低かった。
大っぴらには言えないけれど、こうして影で愚痴や文句をこぼす侍女たちは少なくない。

そこで話を一区切りさせた竜人侍女たちが、ふいに背後を振り返った。
そしてカノンの姿を目に入れる。

「あら、あなた……」

そこでハッとしたカノンは、竜人侍女たちに深々と頭を下げてから、再び早足で歩き始める。
そんなカノンの後ろ姿を眺めながら、竜人侍女たちは囁き合った。

「確か、あの子も歌姫様のお付きの1人よね?」

「そうね。でもあの子は、歌姫様にベッタリってわけじゃないみたいね。
他の2人よりはまだまともなのかも」

「それでも、あの歌姫様が連れて来た人間には変わりないのよ?
期待するだけ無駄なんじゃないかしら」