竜王の歌姫

「ねえ聞いた? 
歌姫様はすっかりギルバート様に惚れ込んでるみたいよ」
「そうらしいわね。暇さえあれば会いにいって、そばから離れようとしないっていうじゃない」

1人で3人分の仕事をこなすためには、ちんたらしている暇なんてない。
急足で次の仕事の持ち場に向かうカノンは、しかし道中に聞こえてきた話に、思わず足を止めた。

「お二人が仲睦まじくされるのは、いいことだけど……」
「……ねえ、正直……歌姫様のこと、どう思う?」

話をしているのはこの城の侍女。しかし彼女たちは2名とも竜人だった。
この城にいるのは、皆立場のある竜人たちだ。
だから例え侍女であっても、その身分は高貴なもの、つまり貴族の娘であることが多かった。

そしてカノンたちは、この城の中で唯一の人間。本来であれば、どちらの立場が高いかなんて比べるまでもない。

「どうって……そうね、私たちの前とギルバート様の前じゃ、随分と態度が違うわよね」
「そうよね、まるで違うわ。私たちにはまるで奴隷に命令するかのような物言いだもの」

しかしルーシーは、“竜王の歌姫“
代わりのいない尊いものとして、竜人たちからも敬われる存在。

つまり、竜人たちもおいそれとルーシーには逆らえないということ。

それをいいことに、周囲の者を自分の機嫌次第で叱りつけたり、無茶な要求をしたりと、ルーシーは城に来てから好き勝手に振る舞っていた。