竜王の歌姫

バルコニーの目下に集まる大勢の民衆。一心に注がれる視線。
背後には、王室関係者がずらりと立ち並んでいる。

(こんなに注目を浴びることは、生まれて初めて)

緊張で震えるカノンの手を、ギルバートがそっと握る。

「大丈夫。
いつものように、カノンの思うままに歌えばいい」

その言葉に頷いて、カノンは大きく息を吸う。

―――この歌が、届きますように

そして、歌い始めた。

今日は歌姫認定の儀式の決行日。
カノンはその一環として、王城の前に集まった国民に向けて歌を披露することになっていた。

カノンの歌が響き渡る。
その歌声を聞いた人々がざわめき囁き合う。

「……この歌声は……」

「間違いない、あの日の歌声……俺たちを助けてくれた歌だ……!」

そして気づく。
この歌声こそ、あの日苦しんでいた自分たちを救ってくれた歌だということに。
ざわめきはやがて歓声に変わっていく。

「この時を以て、カノンが歌姫となることをここに宣言する」

歌が終わると共にギルバートがそう宣言したことによって、大歓声が沸き起こった。

「歌姫様ー!」「カノン様ー!」

あちらこちらで呼ばれる名前と、鳴り止まない祝福の声。
カノンが歌姫となることを、皆が歓迎していた。

ギルバートがカノンの腰に手を回し、2人は寄り添い合う。
国民に向かって2人で手を振ると、ますます歓声は大きくなった。

「ギルバート様万歳! カノン様万歳!」

祝福の声に包まれながら、カノンは心に誓う。


―――私は竜王となるこの人と共に、この国を守っていく。