竜王の歌姫

「……俺も毎夜のように見る夢があった。
広い草原の中に、俺は竜の身体を横たえている。
そんな俺の前では、いつも1人の少女がうたを歌う」

「それって……」

「ああ」とギルバートが頷く。

「俺たちは、同じ夢を見ていたんだ」

こんなことがあるなんて。
驚きに目を開くカノンの銀髪に、ギルバートが触れる。

「目を覚ますと、確かに焼き付けていたはずの少女の顔が思い出せなくなっていた。
唯一消えずに残るのは、眩い銀髪と歌声。
俺はその歌声に焦がれ、ずっと探し求めていた」

その手は優しく髪を梳き、頬を撫でる。

「君と出会い、ここで一緒に過ごすうちに、その少女が君であればいいと……夢物語のようなことを思った。
でも、夢物語などではなかった」

2人は自然と手を重ね合わせた。

「……やっと触れられた」

もう2人の間に障壁は存在しない。
重ねた手の指を絡ませ、繋ぎ合う。

カノンが歌う。
夢の中と同じように、頭に浮かぶメロディを声に乗せて。
ギルバートは金の瞳を優しく細めた。

決して離れたくない。
互いに溢れてくる気持ちに従うまま、繋いだ手に力を込めた。

「……カノン」

そしてギルバートが、カノンに告げる。

「俺の歌姫として、共に生きてくれないか」

これは、夢物語なんかじゃない。
溢れ出す思いに視界が滲む。

「……はい……!」

瞳に涙を浮かべながら、カノンは笑顔で頷いた。

ギルバートが、そんなカノンのことを抱き寄せる。
その力強い腕の中で、カノンは多幸感に包まれた。

(私はこの人と共に、生きていく)

そして2人は顔を見合せ、幸せそうに笑いあった。