「少し歩かないか?」

とある昼下がり、ギルバートから散歩に誘われたカノン。
目的地は、2人の思い出の場所でもある裏庭だった。

「カノンは竜が恐ろしくはないのか?」

「え?」

隣り合って腰掛けて、ふうと息を吐いて。
ギルバートからの問いかけに、カノンは瞬きをひとつ。

「いや……人間の中には、竜の姿に恐れを抱く者もいるだろう」

カノンはすぐにそれを否定する。

「怖くありません。むしろ竜は……私の唯一の救いとなっていました」

「……救い?」

ギルバートが聞き返す。
カノンは頷いて、言葉を続けた。

「……ずっと、同じ夢を見ていたんです。
私は広い草原に立っていて、そこでは出せなかった声を出して歌えた。
そんな私のことを、いつも見ていてくれる竜の姿がありました。
どんなに辛いことがあっても……その存在が、私の心の支えになっていました」

吸い込まれるように、お互いから目が離せない。
カノンは見つめ合ったまま告げる。


「その竜が―――ギルバート様だったんです」