竜王の歌姫

ギルバートがカノンを守るようにさっと前に出る。
それを見て、ルーシーはますます眼光を鋭くした。

「……はっ、今は自分が守られる立場だって?
あんた、私のことを笑いにきたんだろ」

しゃがれた声でルーシーは続ける。

「満足?
私がこんな姿になって、いい気味なんでしょ。
だからわざわざこんなところまで来たんだ。
……私に! 見せつけるために!」

カノンは静かに言葉を返した。

「……あなたのことを笑うつもりも、見せつけに来たつもりもないよ」

「それなら、歌姫様として慈悲でも与えにきてくれたっていうわけ!?
調子のんなよ、あんたの歌は呪いの歌!
親まで殺す歌のくせに……!」

“呪いの歌“―――呪縛はもう解けた。
その言葉に、カノンが動じることはない。

「口を慎め。カノンに対するこれ以上の侮辱は許さない」

怒りを孕んだ声で、ギルバートがルーシーに告げる。

「な……っによ……何よぉ!!
またそいつだけ……カノンばっかりが……あああああああ゛!!」

ルーシーが髪を掻き乱して発狂する。

「……憎い憎い憎い憎い憎い……死んで……ねえ頼むから死んでよぉぉぉ!!
どうして私だけ? どうして何も得られなかったの?
どうしてええええぇぇ!?」

「……カノン」

これ以上は聞くに耐えないと、ギルバートがその場を離れることようカノンに促す。


「……ねえルーシー」

これが最後だと、カノンがルーシーに告げる。

「本来のあなたの、少しハスキーな歌声が……私は本当に好きだったよ」

嫉妬や憎しみの感情に囚われるだけでなく、生まれ持ったものを大切にしていたならば。
違う未来が、幸せが、きっとあったはずだった。

尚も発狂し続けるルーシーに、カノンの声は届かない。

“髪の色が似ているね“
そう2人で笑い合った幼い時のことが頭をよぎる。

「―――さよなら」

もう二度と、会うことはないのだろう。

決別の言葉を最後に、カノンはギルバートと共にその場を後にした。