竜王の歌姫

両親を失ったカノンは、神殿に引き取られることになった。
カノンの歌声の評判を知った神官長が、直々にカノンを招き入れたのだ。

国中から選りすぐった“聖なる乙女“たちが暮らす場所である、神殿。
心の傷も癒えぬまま、カノンもその一員となったのだった。

そしてカノンと同じくして、ルーシーも神殿に引き取られていた。

「自分はカノンの大親友だ」「傷ついたカノンのそばにいてあげたい」
「私にはすごい才能がある」「きっと竜王の歌姫になれるはずだ」

ルーシーは街に視察に来た神殿関係者にそう並べ立てて、自らも神殿に入りたいと懇願した。
結果として、ルーシーにも一応の素質は認められたために、カノンと同時期に神殿に入ることになったのだ。

そして2人が神殿に入って、初めて参加する“祈りの儀“
礼拝堂には両膝をついて手を組む、祈りのポーズをとった“聖なる乙女“たちが集まっている。

神殿に新しく入った者は、そこで1人ずつ歌を披露することが習わしとなっていた。

まず先に、ルーシーが歌う。
己の実力を誇示するように声を張り上げ喉を震わせ、歌い切った。

彼女たちが表情を変えることはない。あくまでもこれは通過儀礼だ。

それに選りすぐられた者たちが集まるこの神殿の中では、ルーシーの歌声は「よくいるレベル」程度であり、彼女たちは特に何かを思うこともなかった。