竜王の歌姫

(……そんなことが起きていたなんて……だから、あの日……)

ギルバートの話を聞いたカノンは、ルーシーの歌声が変化した時のことを思い出していた。

「……それで、ルーシーは一体どうなったんですか……?」

苗床となった者はやがて死に至る―――その言葉が頭に浮かび、恐々と尋ねるカノン。

「瘴気が浄化されたおかげで、千ノ花も消滅した。
彼女と、それから一緒に取り込まれた2人も一命を取り留めたよ」

「……そうですか……」

これまで散々虐げられてきた、ルーシーに対する恨みの感情は消えない。
それに、この国の人々を危機に陥れたことだって許せない。
けれど、生きていると聞いて安堵した自分がいることも事実だ。

「だが、花の養分とされた後遺症なのか……外見が、随分と変貌したようだ」

「変貌……?」

「ああ。以前とは考えられない……まるで、老婆のような姿にだ。
治療を施したが、今後も治る見込みはないそうだ」

「……そう、なんですね……」

ルーシーはいつも外見を重視し、煌びやかなドレスや宝石で飾り立てた己の美しさを誇っていた。
そんなルーシーが、老婆のような姿になった。
一命を取り留めたとはいえ、一体今どんな気持ちでいるのだろう。

「カノン」

名前を呼ばれ、カノンは考え込んで俯いていた顔を上げる。
ギルバートは手を伸ばし、確かめるようにそっとカノンの頬に触れた。

「やっと……やっと君を見つけることができた。
これからは君が、俺の歌姫だ」