竜王の歌姫

開花の時期が来ると、千ノ花はこれまで溜め込み続けた瘴気を解き放つ。

宿主の皮膚を突き破って花が咲き、養分を吸い上げられた苗床はやがて死に至る。
苗床が死んでも、育ち切った千ノ花が消えることはない。
溢れかえる瘴気を浄化し尽くさない限り、この世に瘴気を撒き散らし続ける兵器となるのだ。

千ノ花に苦しめられながらも、長い戦いの末に竜族は勝利を治めた。
それによって、千ノ花は禁忌とされた。
関連したものは全て消し去られ、二度と作られることがないように法を定めた。

今やその存在を知るものはいないだろうという代物。
ギルバートも、王家に伝わる古い文献に残っていた僅かな記述を、昔読んだことがある程度だった。
そもそも魔術師は絶滅し、今の時代には存在しないはずだ。

しかしルーシーは、何者かの手引きにより千ノ花の種を飲み込み、苗床となっていた。

カノンを誰より憎みながら、誰より羨んでいたルーシー。
“カノンみたいに歌えること“
それが心の底にある、彼女の願望だったのだろう。

瘴気を取り込むという千ノ花の特性、本来の歌姫であるカノンが声を失っていたこと。
それらの要因が積み重なって、ルーシーが竜王の歌姫だと誤認されていたのだった。