竜王の歌姫

(私が……歌姫……?)

「でも、ルーシーは……?」

竜王の歌姫は、ただ1人のはず。

カノンの問いに、ギルバートが答える。

「彼女は歌姫ではない。
彼女の持っていた能力は偽りだった」

そしてギルバートの口から、何故ルーシーが歌姫足り得る力を持っていたのか、
その全貌が明かされることになる。

ルーシーによる暴走。その時に身体に咲いた“瘴気を出す黒い花“
その正体は何だったのか。
ルーシーの部屋を調べて見つかった花の種の残骸の調査と、本人からの聞き取りにより、ようやく明らかになった。

“千ノ花“―――それがあの花の名前だった。

遥か昔、人族の魔術師と竜族を主にした争いが起きていた時代。
その際に、竜族を絶滅させることを目的に作られた兵器だ。

限られた環境と限られた魔術師。その2つが揃わないと作ることはできない。
作るためには千人の命を犠牲にする必要があることから、その名がつけられたという。

千ノ花は、種の状態で飲み込むことによって、その人―――苗床の体内に根付く。
空気中の瘴気を取り込むことによって育つ特性を持っていた。

そして千ノ花は、まるで苗床の願いを叶えるように、苗床本人の能力を極限まで高める。
例えば“誰かのように歌いたい“と願えば―――その歌声を変化させることだって可能だ。

しかしその力を行使する度に、取り込む瘴気は多くなり、花は体内でどんどん育っていく。