竜王の歌姫

ギルバートが手を差し伸べる。
カノンはその手をとって、2人で空へと飛び上がった。

ギルバートに身体を支えられながら、カノンが歌う。
触れ合ったところから、身体中に力が漲るのを感じる。

繋いだ手に力を込めれば、ギルバートがより強く握り返してくれた。

この国を守りたい。
それだけを強く願って、カノンは歌い続ける。

歌によって、瘴気が浄化されていく。
狂化によって暴走していた竜たちは、1人また1人と正気を取り戻していった。

いつしか雨は上がっていた。
差し込む日差しが後光の如く眩く2人を照らし出す。

「……歌姫様だ……」

空に浮かぶギルバートとカノンの姿を見上げて、人々は奇跡のようなその光景に涙を流した。

ルーシーのツタは全て消滅して、その足元には吐き出されたアリサとユウミが転がっている。
そして帯立たしい数の黒の花は、白の花へと姿を変えた後に枯れて消えていった。
花の消滅と同時にルーシーも倒れこみ、いち早く動いた騎士団長が部下と共にその身を抑える。

浄化が進むごとに、重くなっていく身体。
霞んでいく意識。
それでも気力を振り絞って、最後の最後までカノンは歌い続ける。


やがて、国中を覆っていた瘴気の全てが消えた。


「―――ありがとう。後は俺に任せて」

耳元で響いたその声を最後に、カノンは意識を失った。