竜王の歌姫

「……ノン」

意識を失っていたカノンは、自分を呼ぶ誰かの声によって目を覚ます。
気づくとカノンは真っ白な空間に立っていた。

そして、目の前にあったのは―――「カノン」

「パパ……ママ……?」

死んだはずの、両親の姿だった。

これは夢?幻?

もう何だっていい。
ずっと会いたかった存在に会えたのだから。

2人はカノンを見つめ、優しく微笑んでいる。

カノンの瞳から、涙が溢れた。

「……パパ、ママ……!
ねえ、会いたかった。ずっと、寂しかったんだよ……っ」

クシャリと顔を歪ませて、大粒の涙を流しながらカノンが言う。

「……私も、パパとママのところに行きたい……!」

カノンの両親はその言葉に首を振った。

「カノンには、まだやることがあるでしょう?」

母の言葉を聞いて、浮かぶ光景。

ニアや他の竜人侍女。
みんな、この城に来てからできた大切な人。

そして、ギルバート。
「この国と民が宝」だと、そう言っていた。
そんなギルバートが大切にするこの国を、守りたい。

―――そのためには?

「どうすればいいのか、分かるだろう?」

「カノンにしかできないことよ」

両親に促され、カノンは本能的に悟る。


そのためには―――私が、歌えばいい。


『アンタが歌ったせいで、両親は死んだ』

ルーシーの声がフラッシュバックする。
浮かんだメロディは喉元でつかえ、“呪いの歌“
その言葉が耳にこびりついて離れない。

「でも、私の……私のせいでパパとママは……」

「それは違うわ、カノン。
私たちの死は、あなたのせいじゃない。
そうやって自分を責める必要なんてないの」

母が、カノンの両手を握る。

「私たちは、あなたの楽しそうに歌う姿が好きだった。
あなたのことが誇りだった。
それは、今も変わらないわ」

父が、カノンの肩に手を置く。

「お前の歌は、“呪い“なんかじゃない。
俺たちに“幸福“を与えてくれる、そんな歌だ」

呪いをかけていたのは、自分自身だったのかもしれない。

「ねえ、だからカノン。
あなたの歌をもう一度聞かせて」

そしてカノンは、長年に渡る呪縛を今―――解き放った。