竜王の歌姫

息を切らしながら走って、たどり着いたのは騎士団の演習場。

「やめて……殺さないでええええ!!」

そこでまずカノンが見たのは、そう泣き叫ぶマーガレットの姿だった。
地べたを這いずりながら、空に向かって必死に震える手を伸ばしている。

上空では、狂化して暴走する竜と、それに相対する数匹の竜がいた。

とある竜は口から水を吐き、狂化の竜の動きを水牢のように封じ込めて
またとある竜は大きく動かした翼から風を送り、肉体を切り裂いて弱らせる。
いずれも5属性の力によるものだろう。

狂化で自我を失った竜に相対するには、生半可な攻撃では通用しない。

カノンはマーガレットに駆け寄った。
マーガレットはカノンに気づくと、縋りついた。

「助けて……レナードが死んでしまうわ……!」

狂化した竜の中には、マーガレットの恋人である若い騎士・レナードも含まれていた。
このままでは、愛する人が正気を失ったまま死んでしまう。
マーガレットは涙を流し続けながら、悲痛な面持ちで攻撃を受ける恋人の姿を見つめていた。

(どうして、こんなことに……)

そしてカノンは、変わり果てたルーシーの姿を目にする。

(あれは何……!?)

あまりに禍々しい様子に、ひゅっと息をのむカノン。

これは、歌だ。
悲鳴のように聞こえるけれど、ルーシーはずっと……終焉を呼ぶ絶望の歌を奏でている。