竜王の歌姫

大粒の雨が降りしきる中、一部の竜人たちは暴走を始めていた。

溢れ出る瘴気にあてられて、その身体は人形を保てず竜へと変化。
自我を失い、パニック状態に陥ったまま空に飛び上がる。
大きな翼や強靭な身体によって建物の一部が倒壊し、木々が薙ぎ倒されていった。

「団長!
ダメです、彼らは狂化しています……!」

「そうだな……ありゃもう完全に暴走してやがる」

騎士団の中でも、団長をはじめ指折りの実力を持つ者は、この瘴気の中でも
まだ立って動くことができていた。
しかしそれも、いつまで持つか分からない。

「唯一あれをどうにかできたかもしれないお方が、今や瘴気の発生源ときたモンだ」

騎士団長の前方には、悲鳴とも歌とも知れないような絶叫をあげ続けるルーシーの姿。

「団長、空の方は私たちに任せてください。
……属性の使用許可を願います」

狂化した竜人を正気に戻せる可能性を持つのは、歌姫の力だけ。
その力が使えない今、そんな竜人たちの暴走を止めるには―――殺すしかない。

狂化した竜人の中には、騎士団の仲間もいた。
しかし今や国中にパニックは広がっている。
これ以上の被害を出さないために、彼らにとっても苦渋の決断だった。

「……分かった。許可する」

騎士団長の許可を得て、数名の騎士が身体を竜に変えると空に飛び立っていく。

「……さて、こちらはどうすっかねぇ……」

ルーシーからは、今も尚瘴気が溢れ続けていて、近づくことすらままならない。
騎士団長は剣を構えながら、額に汗を滲ませた。