竜王の歌姫

(しょうがないわね……)

すうっと大きく息を吸い込んで、ルーシーはいつものように歌い始める。

ほら、私はすごいでしょう?
私のおかげで救われるのだから、褒め称えて首を垂れなさい。

しかし、いつまで経っても瘴気が晴れることはなかった。

(どうして……!?
いつもならとっくに……)

今までより瘴気が濃いとはいえ、全く浄化ができないなんて。
明らかにおかしい。
雨に打たれながら、ルーシーは顔色を変えた。

「瘴気がちっとも消えないぞ……?
どうなってるんだ……?」

「う、歌姫様……?」

(分かってるわよ……!)

周囲から漏れ始めた不安の声に、感じる急り。
どれだけ歌い続けても、依然として瘴気が浄化されることはなくて。
むしろより濃く広がっていくばかりだった。

身体に走る違和感は、どんどん大きくなっている。
身体中を掻きむしりたくなるような不快さ。
心臓が激しく脈打って、胸が苦しくなる。

これ以上息が続かなくて、ルーシーは歌うことを止めた。

広がり続ける瘴気に、竜人である騎士たちは徐々に苦しみ始める。

「歌姫様……どうかこの瘴気を消してください……!」

「このままでは我らの身も持ちません……!」

(……うるさい……)

割れるように頭が痛む。何も考えたくない。
嘆願する騎士たちの声が、耳元を飛び回る羽虫のように耳障りだった。

痛い。苦しい。クルシイ。

「なあ、聞いてるのか!?」

「普段あれだけ偉そうにしておいて……一体何のための歌姫だよ……!」

「歌姫様!」

(うるさいうるさいうるさい……!)

「だまれえええぇぇぇぇ゛!!」

ルーシーが叫ぶと同時に、その身体から大量の緑色のツタが飛び出した。