今回の件は、おかしな点ばかりだった。
そもそもフォーゲルの王子であるラースは、日頃からその身に瘴気を溜め込むことがないように徹底しているはずだ。
我が国に来る前なんて尚更、万全な対策をしてきたことだろう。
それに、ウチの竜人たちには異常はなかった。
ピンポイントに瘴気の影響を受けたラース。
そして、襲われた輸送隊。
突如として倒れた歌姫。
これを偶然と呼ぶには出来すぎている。
輸送隊のメンバーは、結果として全員が殉職した。
その中には、属性持ちの者だっていたはずだ。
属性持ちがその力を使えば微かにでもその気配が残るはずだが、現場には襲撃者の力の気配は、何も残されていなかった。
襲撃者は、属性持ちではないにも関わらず強大な力を持っていた?
「そんな芸当ができるのは、魔術師くらいのものだったはずだがのう……」
臨時会議にて、国一番の長寿である竜人の男……長老がそう言った。
遥か昔、人族の魔術師と竜族を主にした争いが起きていた時代があった。
この魔術師は竜族の天敵で、かつては散々苦しめられたようだ。
しかし結果として竜族が勝利を収め、魔術師は絶滅した。
今ではその存在を知る者の方が少ないだろう。
ギルバートも、魔術師については古い文献で知り得たことが殆どだ。
そんな存在の再来の可能性を考えるよりは、他の可能性を見つけ出す方が現実的だろう。
そう思うが、何かが忍び寄るような不穏な影を感じる。
何れにせよ、襲撃に関しては竜人や鳥人を狙った作為的なものであると考えてほぼ間違いない。
引き続き調査を続けていく必要があるだろう。
それにルーシー。
目を覚ましてから再度医者による診察を受けたが、やはり特に異常は見られなかった。
“ギルバートに愛されなければ、歌姫なんてやる意味がない”
そうルーシーは言っていた。
間違いなく、ギルバートに突き放された影響だろう。
それに、ラースのことも。
ラースがルーシーに迫られた一件は、ラースから報告を受けて知っていた。
だからこそルーシーは、個人的感情で治療を拒否していた。
歌姫は、利己的であってはならない。
歌姫がその地位を振り翳し、皆が謙って跪いて歌姫の治療を乞う。
そんなことになれば国の崩壊に繋がっていくことだろう。
この国のために、苦しむ人々のために。
その心でこの国を背負っていく覚悟を持ってこそ、歌姫足りえる。
しかしルーシーにそれを期待しても無駄だろう。
ならば歌姫を彼女の“仕事”として責任を与え、上手く扱っていく他ない。
……いい加減、歌姫が別にいるなんて幻想は捨てなければならないな。
ギルバートはそう自嘲気味に笑うのだった。
そもそもフォーゲルの王子であるラースは、日頃からその身に瘴気を溜め込むことがないように徹底しているはずだ。
我が国に来る前なんて尚更、万全な対策をしてきたことだろう。
それに、ウチの竜人たちには異常はなかった。
ピンポイントに瘴気の影響を受けたラース。
そして、襲われた輸送隊。
突如として倒れた歌姫。
これを偶然と呼ぶには出来すぎている。
輸送隊のメンバーは、結果として全員が殉職した。
その中には、属性持ちの者だっていたはずだ。
属性持ちがその力を使えば微かにでもその気配が残るはずだが、現場には襲撃者の力の気配は、何も残されていなかった。
襲撃者は、属性持ちではないにも関わらず強大な力を持っていた?
「そんな芸当ができるのは、魔術師くらいのものだったはずだがのう……」
臨時会議にて、国一番の長寿である竜人の男……長老がそう言った。
遥か昔、人族の魔術師と竜族を主にした争いが起きていた時代があった。
この魔術師は竜族の天敵で、かつては散々苦しめられたようだ。
しかし結果として竜族が勝利を収め、魔術師は絶滅した。
今ではその存在を知る者の方が少ないだろう。
ギルバートも、魔術師については古い文献で知り得たことが殆どだ。
そんな存在の再来の可能性を考えるよりは、他の可能性を見つけ出す方が現実的だろう。
そう思うが、何かが忍び寄るような不穏な影を感じる。
何れにせよ、襲撃に関しては竜人や鳥人を狙った作為的なものであると考えてほぼ間違いない。
引き続き調査を続けていく必要があるだろう。
それにルーシー。
目を覚ましてから再度医者による診察を受けたが、やはり特に異常は見られなかった。
“ギルバートに愛されなければ、歌姫なんてやる意味がない”
そうルーシーは言っていた。
間違いなく、ギルバートに突き放された影響だろう。
それに、ラースのことも。
ラースがルーシーに迫られた一件は、ラースから報告を受けて知っていた。
だからこそルーシーは、個人的感情で治療を拒否していた。
歌姫は、利己的であってはならない。
歌姫がその地位を振り翳し、皆が謙って跪いて歌姫の治療を乞う。
そんなことになれば国の崩壊に繋がっていくことだろう。
この国のために、苦しむ人々のために。
その心でこの国を背負っていく覚悟を持ってこそ、歌姫足りえる。
しかしルーシーにそれを期待しても無駄だろう。
ならば歌姫を彼女の“仕事”として責任を与え、上手く扱っていく他ない。
……いい加減、歌姫が別にいるなんて幻想は捨てなければならないな。
ギルバートはそう自嘲気味に笑うのだった。

