竜王の歌姫

『私は、この国に残ります。
辛くても、少しでもギルバート様のそばにいたいと思うんです』

その言葉を聞いて、確信する。
カノンとギルバートは、互いに想い合っているのだと。

……アイツも同じ目、してたな。

真っ直ぐなカノンの瞳を見つめながら、ラースは先日のことを思い出していた。


治療薬がなかったら、ラースは確実に狂化を迎えていただろう。
それを防ぐために奔走してくれた親友(ギルバート)に、感謝してもしきれない。

だからこそ、言葉では伝え切れない感謝を伝えるため。
帰国前に最後のひと押しをすることにした。

「ねえ、ギルバート。
キミがはっきりしないなら、俺がカノンをフォーゲルに連れて行くよ」

執務室の中でギルバートと2人きりの中。
帰国前に必要な書類の判を押していたギルバートの手が、ぴたりと止まる。

「それは本気か?」

「うん、本気だよ」

ギルバートをけしかけるための言葉だが、返答次第では本当に連れ帰ってもいいとすら思う。
ギルバートはじっとラースを見据えたまま口を開く。

「……以前お前は、“(ギルバート)にとってカノンは何なのか”と言っていたな」

あの時は、“まだカノンとの関係に名前をつけることはできない“と言っていたギルバート。

「彼女は俺にとっての大切な人で、なくてはならない存在だ」

カノンのことを語るその目は、見たこともない程に優しい色をしている。

「この国の未来と平和を守ること。それが竜王となる俺の使命だ。
だが俺は、心が叫ぶように愛しいと思う……カノンのことを手放したくない」

だから、とギルバートは続ける。

「カノンがそう望んでくれるならば、彼女との関係に名前をつけてみせると決めた」

そして、ギルバートはラースに向けて宣言するのだった。

「だからカノンを渡すことはできない」

互いを想う、真っ直ぐな目。
なんだ、お似合いの2人じゃないか。

俺の目に狂いはなかったなと、目の前のカノンを見ながら思う。

「カノンがそう決めたなら、それを尊重するよ。
ギルバートをよろしくね」

そう言えば、少し不思議そうな顔をするカノン。

ギルバートから熱烈に想われていることを、カノンはまだ知らないのだろう。
それを知った時にはどんな顔をするのかと、想像するだけで少し笑いが溢れるのだった。