竜王の歌姫

泣き腫らして目を赤くした鳥人侍女に「今は近づかない方がいい」と言われたけれど、
カノンはいてもたってもいられず治療室の前にやって来ていた。

「っぐ……あああ゛あ゛……!」

大きな物音と、苦しげな悲鳴が聞こえきて、カノンは慌てて治療室の中に入る。

そこには、人型を保てず完全に鳥の姿となったラースの姿があった。
四肢には枷が嵌められていて、身体にも何重にもなった鎖が巻きつけられていた。
ラースが動くたびに、地面に打ち付けられるそれらが派手な音を響かせる。

悲鳴のような、唸りのような。
嘴の奥からは、聞いているだけで胸が締め付けられるような悲痛の声が絶え間なく溢れている。

大きな翼が鎖の中で抜け出そうともがくように羽ばたいていて、その度に抜け落ちた大量の羽が空気を舞った。

そのあまりに苦しげな様子に、カノンは慌ててラースの元へ駆け寄った。

普通なら、もう狂化が始まっていてもおかしくない。
しかしラースは、強靭な精神力によってギリギリのところで踏みとどまっているのだ。

「……出ていって、くれないかな……今の俺は、制御が効かない」

息も絶え絶えのラースは、それだけ言うのがやっとのようだった。

(でも……こんな状態のラース様を、とても1人には……)

「うぅ、う゛、あああああ……」

ラースはまた苦しげに呻き、それと連動するように羽ばたいた翼の先端が、カノンの頬を掠めた。
鈍い痛みが頬に走り、生暖かい液体が滴り落ちる。
そっと手のひらを当てれば、真っ赤な血が付着して。

カノンの頬には、横一文字に切り裂いたような傷ができていた。

それを見たラースが、ハッと目を見開く。

「……だから言っただろ……」

大丈夫だと伝えようとカノンが一歩踏み出そうとするのを、ラースは鋭い眼光で止める。


「―――出ていけ」


ラースの言葉と連動するかのように、治療室のドアが開いた。

「ここにいるのは危険です。
これからは騎士団以外立ち入り禁止となりますので……こちらに」

そして入ってきた数名の騎士たちによって、カノンは部屋の外に連れ出された。