竜王の歌姫

この国、ラシエルの竜王には必ず歌姫が現れるとされている。
しかし鳥・蛇・狼……竜以外の種族の王が治める国には、歌姫が生まれないことがある。

そんな歌姫を持たない国の瘴気に対する救済策として、治療薬が存在する。
しかし治療薬は希少で高価なものであり、各国への流通数なども制限されていて、基本的には王侯貴族しか使うことが叶わない。
大多数の庶民は良くて進行を遅らせる薬で凌ぐ程度だ。

だからこそ、歌姫は世界的に見ても貴重な存在なのだ。

国交として他国に赴き、歌でその国の民衆を癒すことも歌姫の仕事の一部とされる。

最強の竜種と歌姫が共にあるラシエルは、各国に多大な影響力を持ち栄えている。
しかし竜人は、その分最も瘴気の影響を受けやすく、治療薬も効かないという特徴があった。


ラシエルは治療薬の保有が認められていないため、フォーゲルから治療薬が取り寄せられることになった。
ギルバートの的確な指示とフォーゲルとの連携により、輸送隊は今日中にも到着する見込みだという。

治療室の中に、カノンは入室する。
そこには荒い息を吐きながら、ぐったりとベッドに倒れ込むラースの姿。
背中からは翼が生えたまま、今は手足も鳥化していた。

ラースの侍女たちは、交代でラースの看病を担っていた。

カノンはラースの体にそっと触れる。

「……カ、ノン……」

視線だけがゆっくりとこちらに向き、ラースがカノンの存在を視認する。