「いい加減にしろ。
これからも歌姫を名乗るつもりがあるのなら―――拒否は許さない」
空気が重く張り詰めるような、怒りと威圧を含んだ低い声。
ギルバートの鋭い視線を受けたルーシーは、ビクッと肩を揺らした。
そしてわなわなと震え始めたかと思うと、弾けるように叫んだ。
「……元はと言えば、ギル様が悪いのよ!
私を受け入れてくれない!
私はすごいはずなのに、ちっとも思い通りにならない!」
そこで、ルーシーとカノンの視線が重なる。
その瞬間、ルーシーはより一層顔を険しくさせて、声を張り上げた。
「ギル様に愛されないなら、歌姫なんてやる意味ないの!
ねえ、私の力が必要なんでしょ? 助けて欲しいんでしょ?」
周囲が唖然とする中、ルーシーは喚き続ける。
「それなら私をちゃんと愛するって言ってよ!
そして、私を妻にするって約束して?
ねえギル様! ねえ……!?」
しかし次の瞬間、ルーシーは頭を抱え込むように両手で抑えた。
「っぅううう゛ぁ……!」
咆哮のように苦しげに呻き、膝をつく。
「おい、どうした!?」
「ルーシー様……!?」
ギルバートやミドルがギョッとして駆け寄る中、ルーシーは電池が切れたようにその場に倒れ込んだのだった。
倒れ込んだルーシーには発熱があった。
医者の見立てによると、倒れたのは発熱の中興奮した影響もあるだろうということだった。
熱も流行り風邪由来のものであると見られ、命に別状はないらしい。
しかし高熱のため、意識は朦朧とした状態のまま寝込んでいる。
そんな状態のルーシーが、ラースの治療を行うことは不可能だ。
そんな中、ギルバートは迅速に判断を下す。
「―――治療薬を取り寄せよう」

