竜王の歌姫

理由は分からずとも、ラースの不調が瘴気によるものであるならば、適任はただ1人しかいない。
瘴気に対する最大の特効薬である―――歌姫(ルーシー)

ルーシーの元には、ギルバートをはじめミドルやお付きの騎士などが集まっていた。

客人であるフォーゲルの王子が倒れたというのは、国家問題にもなりかねない一大事だ。
張り詰めた空気の中、ギルバートがルーシーに問う。

「―――という訳で、君の歌でラースの治療を頼みたい」

カノンもラース付きの侍女として、少し離れた場所からその様子を見守る。

上限を超えて瘴気に侵された者は、放っておけば狂化の道を辿ってしまう。
そして、治療がなされるまでは地獄の苦しみを味わうという。
だからこそ、より早く治療をする必要があるのだ。

(でも、これできっとラース様も楽に……)

「―――嫌」

しかし聞こえたルーシーの返答に、耳を疑った。
それは周りも同じだったようで、ざわめきが起こる。

「だって、ラース様は私のことが嫌いのようですし。
そんな相手から助けられるのはお望みじゃないと思いますよ?」

ルーシーは半笑いのような表情で言った。

「今は好きとか嫌いとか、そんなことを言っている場合ではない。
一刻を争う事態なんだ」

ギルバートは真剣な表情でルーシーに告げる。
けれどルーシーは、不満げな表情を隠さずに言い放つ。

「じゃあ、あの人が“酷い態度をとってごめんなさい。助けてください”
って私に土下座でもして謝罪するなら、治療してあげてもいいですよ」