「ねぇねぇ真香ちゃん。さっきのイケメン誰~? 仲良かったよね!」
私を待っていた矢部先輩は、ニヤニヤとした視線を向けてくる。まさか、見られていたとは。
遅くなっちゃったのかな、と後悔した。
「ただの幼馴染です」
「幼馴染? え~本当に?」
「本当です」
そう、朝陽はただの、幼馴染。
それは、絶対に変わらない。
「そっか~、すっごくかっこよかったし、番号聞いちゃおっかな~ふふっ」
……何を反応してるんだ、私は。
飲み会中は極力スマホを見ないようにしていたけれど、やっぱり見てしまう。気になって気になって仕方なかった。
メッセージを送ってくれる。すぐ近くにいる。その事実だけで、ドキドキしてしまう。
ようやく終わり、会わないようにと店を出た。先輩には声をかけられたけれど、切り上げて逃げた。
スマホはミュートにして、バッグの奥底に入れて。
けれど……
「朝陽くぅ〜ん、二件目いこーよぉ!」
「だぁから、明日仕事なんで帰りますって言ってるでしょ先輩!」
「や〜だぁ〜」
「あーもーさっさと乗って!」
店を出て、少し歩いたあたりで聞こえた。朝陽の声が。振り向くと、タクシーの隣に立つ朝陽が見えた。若い女性が朝陽によってタクシーに押し込められ、ドアを閉めていた。
けれど、少し前の記憶を引っ張り出していた。
さっき、朝陽、先輩達、って言ってたよね。先輩と、じゃなかった、よね?
朝陽のことでいっぱいで、ちゃんと聞いてなかった。
「……あ、はは……」
馬鹿だなぁ……まだ好きだなんて、アホだろ私。
自分に、呆れてしまった。



